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25歳で博士を取れる!? 阪大基礎工 機械科学コースのスプリンタープログラム

久しぶりの気まぐれの更新です。

大阪大学基礎工学部(大学院基礎工学研究科)の機械科学コース(機能創成専攻)にはSprinter Program(スプリンタープログラム)という博士前期(修士)課程+博士後期(博士)課程の5年を最短3年に短縮して、博士号を早期に取得できる制度があります!

実際に私もその制度を利用している最中なので、制度の概要と自分の感想を書いてみました。

 

 

スプリンタープログラムとは

日本で博士号を取ろうと思ったら、大学院で修士課程(2年)と博士課程(3年)で5年過ごすのが一般的です。つまり、22歳で学部を卒業した場合、順調に進んだとして博士号を取得する年齢は27歳になります。

基礎工学研究科機能創成専攻では、大学院の5年を最短3年に短縮して早期に博士号を取得できるスプリンタープログラムという制度があります。つまり、最短の3年で修了できた場合、25歳で博士号を取れることになります。

 

モデルプランとしては、修士を1年、博士を2年に短縮するという感じです。後述にありますが、どれくらい短縮するかしないかは割と柔軟で、自分と指導教員と相談して決められます。

短縮が保障されている訳ではありません。特に博士課程の修了には研究の実績(学術雑誌への投稿論文を数本)が必要なことには変わりありません。例えば、博士課程を2年過ごしたとしても、実績がなにもなければ、博士の学位論文の審査が不合格となります。

概念

ややこしいですが、スプリンタープログラムという明確なコースがある訳ではないです。

修了要件は普通と同じなので、早めに単位を取って修了する権利みたいなものです。

例えば、修士課程の座学の授業の単位は1年で取りきることは難しくありませんが、研究室内で行う科目であるゼミナールや研究は、通常は各学期に1つずつ履修することになっていて、1学期に2個以上取ることは特別な理由がない限りできません。

それをスプリンタープログラムなら許可してもらえるという感じです。

出願

大学院に入ることが前提の制度なので、大学院試験に合格後にスプリンタープログラムに出願できるようになります。

だいたい学部4年の後期に出願しますが、修士1年に入ってから出願した人もいるという話も聞いたことがあります。明確な締め切りはないです。

手順としては、指導教員を通じて出願します。

まずは教員に相談して出願の許可をもらい、教員から出願書類をもらいます。研究内容や出願理由を書いて、教員に提出します。

(おそらく教授会で)書類審査が行われ、合格したら合格通知書が教員から渡されます。この審査で落ちたという話は聞いたことがないです。

出願資格は博士課程への進学意思があるかだけと思われます。指導教員に認められるくらい天才でなくても、研究への熱意が伝わっていれば、指導教員は許可してくれると思います。

私も出願前はものすごくハードルが高いものと感じていましたが、今思えばそうでもないと感じます。

修士号も途中で取れる

スプリンタープログラムの場合、修士号を途中で確実に取れます。というか取らないと博士課程に進めないので。

どれくらい短縮したいかに依りますが、一般的には、修士課程を1年に短縮するので、1年で修士の単位を取りきる必要があります。

研究室内で行うゼミナールや研究という科目は、通常は各学期に1回ずつ発表したりレポートを提出したりしますが、スプリンタープログラムの場合は各学期に2回ずつすることになります。もちろん同じものをコピペで2個提出するのはダメなので、指導教員と相談して、課題を2つに分割してレポートを作成するなどします。

大阪大学飛び級制度との違い

ところで、大阪大学には学部3年次に大学院入試を受けて学部4年を経ずに大学院に入る、飛び級制度があります(私はその利用者を見たことがないですが)。その場合は学部を退学扱いになるため、学士の学位を取得できません。

なので、「機械科学コース」かつ「博士進学を考えている」かつ「学位の早期取得」をしたい場合は、スプリンタープログラムの方が、途中で学位もきちんととりながら短縮もできるのでおすすめです。

ちなみに、理論上は、学部から大学院の飛び級とスプリンタープログラムを両取りしたら、最短で24歳で博士号を取得できる訳です(よっぽどせっかちな天才でないと、やろうとも思わないわけですが)。

博士課程の入学試験も普通に受ける

スプリンタープログラムだからといって、博士課程入学まで確約はされていないので、普通に博士課程の入学試験も受けます。

4月入学の場合、試験は1月あたりで、ちょうど修論で忙しい時期となります。

修論の概要などの書類提出と、教授陣の前でこれまでの研究や今後の研究計画についてプレゼンを行います。よっぽどまずいことをしなければ落ちないので、しっかり準備をして夢を語ればOKです。

短縮しなくてもOK

スプリンタープログラムは短縮する権利のようなものなので、短縮しなくても問題ありません。

残念なことに日本では博士課程の学生の給与が保障されていないため、早く博士を取って早く就職できるという経済的な理由が、スプリンタープログラムを選ぶ主な理由かなと思います。

研究奨励金や奨学金が取れなかった時の保険としてスプリンタープログラムにとりあえず入っておくのもありで、実際に生活費が確保できたら短縮せずに正規の年数で修了を目指すという人も聞いたことがあります。

一方で、短縮したくても短縮できない可能性もあります。前述のように、博士課程の修了には研究の実績(学術雑誌への投稿論文を数本)が必要なので、それを満たせなければ早期修了はできません。

 

体験談(現在進行中)

出願時期

私の場合は、学部4年の10月くらいに博士進学とスプリンタープログラムに興味があることを指導教員に相談し、出願書類をもらいました。

それからしばらく考えて、12月くらいに出願書類を提出し、数週間後に合格通知書をもらった気がします。

出願した理由

一つは、経済的な理由です。近年は博士課程の学生への支援が増えてきましたが、残念ながら、絶対に採用されるという保障はないので、博士号も取りたいけど早く就職したいという思いがありました。

もう一つは、変な経歴がほしいというただの興味です。今までも、高専、留学、休学、留年、編入、といった道を辿ってきたため、ここまで来たら、珍しい経歴コレクターを極めるのも面白いかなと思いました!

学部学生の大学院科目履修制度

基礎工学部には「学部学生の大学院科目履修制度」があり、これを使うと学部のうちに修士課程で必要な座学の単位を半分くらいとることができます。

これを使ったおかげで、修士課程に入ってから研究により力を注ぐことができて、短縮が少し楽になりました。

履修制度については、編入体験 B3を通して思ったこと - tanukinancのブログ の記事で少し触れています。

現実的にどのくらい短縮できるか

修士課程を1年に短縮するのは、人より忙しくなるのは確かですが、頑張れば割とできると思います。

修士論文は、学術雑誌への投稿論文とまではいかなくても、学会発表できるくらいの結果があれば修了できるので、学部4年からある程度頑張っていれば大丈夫だと思います。

一方で、博士課程を短縮するのは容易でなさそうです。

前述のように、博士課程の修了には研究の実績(学術雑誌への投稿論文を数本)が必要なので、短い期間でそれを満たすのは難しいです。

なので、スプリンタープログラムでも修士課程だけ短縮して博士課程は3年とする人が実際には多いように感じます。

修士課程と博士課程を合わせて3年で修了した実例もあるそうですが、かなり珍しいそうで、ミラクル3年とも呼ばれているとか。

メリット

やはり経済的なメリットが大きいように感じます。

「学費1年分を浮かせる」+「早く就職して稼げる」ことを考えると、1年の短縮だけでも、奨学金数年分くらいの経済的な価値があるのではないかと思います。

あとは、民間企業に新卒で就職する場合には、優秀さのアピールポイントになったり、早く入ってくれるという意味で歓迎されたりしそうな気がします。

デメリット

アカデミックの面ではデメリットとなることもあります。

博士課程に進む場合、倍率が少し高い学振という研究奨励金をもらえる制度に申請することになると思います。修士課程を短縮して学振を申請する場合、研究経験が1年長い人たちと競争することになるため、研究実績の面で多少不利となるかもしれません。ただし、実績がすべてではないので、諦めないで申請することが大切だと思います。

博士号取得後にアカデミックに残る場合も、大学や研究所の公募に応募する訳ですが、研究実績が多い方が採用されやすいと思われます。

また、大学院生特有の自由な研究にかける時間が短くなることもデメリットです。企業や大学に就職した後には、契約があるため、所属先の意向に沿う必要があるため、自分のやりたい研究ができるとは限らないと思います。一方で、大学院では、指導教員がいますが、多少は自分のやりたい方向に修正することや新しいテーマを提案することは十分に可能です。早期修了はそんな貴重な時間を減らしてしまう可能性があります。

 

自分の感想

おすすめ

紹介したように、短縮してもしなくてもいい、短縮が確約されている訳ではないため、スプリンタープログラムはあってないようなものですが、プログラムに入ることで早くから早期修了を見据えて研究を計画できたのが個人的にはよかったと思います。

聞いた感じだと、スプリンタープログラムに入る人は学年に数人(そもそも博士課程に進学する人自体が少ないのでその中ではまあまあの割合)いてそんなに珍しくはないので、とりあえずプログラムに入ること自体のハードルはそんなに高くないです。

 

ある意味、日本独特の研究室のシステムだからこそできる早期修了なのかなと思います。

ある国に留学して研究室を見たのですが、そこでは修士論文の研究が1学期だけで行われていました。つまり、修士2年の後期から研究を始める感じです。

さらに大半の博士課程の学生は修士課程とは別の研究室から来たりしているため、実質は博士課程に入ってから本格的な研究が始まるという感じで、もちろん3年で修了できる訳がなく、4~5年かけて博士号を取るのが普通でした。それでも、博士課程が仕事として認められていて、それなりの給与が保障されていました。

一方、日本では、学部4年から研究を始め、修士もがっつり研究します。修士課程でこんなに研究レベルが高い国はあまりないのではないかと思います(プラス1~2年続ければ投稿論文も出せて博士が取れるのに、多くが就職してしまうのはもったいない...)。

それを考えると、そこそこ頑張っている日本の大学院生なら十分早期修了できる可能性はあるし、投稿論文数本分の研究実績を出せるなら、学位を早期取得できるというのは合理的な気がします。

日本の研究室のシステムの是非はともかく、今はそれに乗っかってどんどん早期修了するのもありなのではと思います。

 

話は変わりますが、システム科学科では学部2年次に機械・知能・生物のコース選びをするのですが、毎年優秀な学生が知能に流出しています... 知能がなぜか圧倒的に人気な現状はどうにかならないものかと思いますが、それはさておき、機械ではこんな柔軟なこともできて、知能に自信を持って進むくらい優秀なら、スプリンタープログラムの制度を十分に活用できる素質はあるよ!ということが高校生や学部1年生の誰かに伝われば幸いです。

本来あるべき博士課程は...

個人的には、スプリンタープログラムに後押しされて博士課程に進み、今は博士課程に進んでよかったと感じているため、この制度に感謝しています。

一方で、全ての専攻や大学でこの制度がある訳ではなく、自分もこれがなければ博士進学していたか分かりません。

個人的には、この制度が広がってほしいというよりも、根本的に、経済的・将来的な不安を感じずにもっと気軽に就活や博士進学ができ、博士課程に4~5年かけてでもじっくり研究ができるような世の中になればいいなと思います。